サブミニチュア管6021Wハイブリッドプリアンプ(2)2014年12月



1段増幅アンプは、そのシンプルな増幅メリットによって、超高域発振に対する余裕のある補正、あるいはアンプの高速化が容易に図れる。前回では優れた回路方式である1段増幅アンプの初段をサブミニチュア管に置き換え、ノスタルジックともいえる真空管の魅力を得ることに成功した。そして、課題となる出力オフセット電圧に対処するために出力部に出力コンデンサーを入れる方法を試みた。今回は出力オフセット電圧に対処するためにDC負帰還回路を設けた。

旧来、DC負帰還方式にはDCサーボといわれるオペアンプ等を用いたものがある。アンプ出力部のDC電圧を検出し、DC成分のみを増幅してFETからなる初段差動増幅部に帰還させる方法である。この方法は本機のような初段真空管のハイブリッドアンプにも適用することができる。しかし、FETやトランジスタは半永久的なものと考えてもよいが、真空管の場合は寿命ともいえるものがあると見なければならない。初段にDC負帰還させる方法では、万が一初段真空管が不調になった場合、アンプの増幅機能とともにDC負帰還機能も破綻する結果、出力に大きなオフセット電圧が発生する恐れがある。別の手法を用いる必要がある。

本機では初段真空管の負荷である定電流回路にDC成分を負帰還する手法を開発した。この手法は、DC成分を初段真空管のグリッド入力に戻すのではなく、その後の増幅途中にフィードフォワードの形で戻すというものである。この手法によって、真空管の破損にきわめて強い回路となった。

<全体構成>
本機は「サブミニチュア管6021Wハイブリッドプリアンプ(1)」のアンプ基板のみを置き換えたものであり、そのほかの筐体、電源等の構成は同じである。

<増幅部回路
アンプ部
アンプは初段に6021Wサブミニチュア管を用いている。使用する能動的な半導体にはメタルキャンシールのトランジスタを多用している。入力から出力に向かってその動作を説明する。入力信号はQ201(6021W)の入力側3極管のグリッドに入る。他方の3極菅のグリッドにはR118(33kΩ)、R119(5.6kΩ)によってNFBがかかる。Q101のそれぞれのプレート電流は定電流負荷用トランジスターQ103(2SA603)、Q104(2SA603)で受け、定電流負荷の余った電流を2段目のベース接地トランジスターQ105(2SA604)、Q106(2SA604)のエミッターに注入している。Q106のコレクターは直接Q111(2SC943)のベースに接続され、終段を駆動する。Q105のコレクターは、いったんQ107(2SA603)を通り、Q108(2SC979)、Q109(2SC979)からなるカレントミラー回路に接続され、終段を駆動する。Q105〜Q109はI/V変換回路である。初段の実質のgmをgm’、終段ダーリントン部の入力インピーダンスをr0とすれば、アンプの裸ゲインはgm’r0である。本機の裸ゲインはおよそ75dB、クローズドゲインが13dBである。
DC負帰還部
アンプの出力からはR120(10MΩ)とC106(1μF)によってDC成分を検出し、Q115(μPA71)、Q116(2SC979)、Q117(2SC979)の差動2段増幅回路によって、バランスした電流に増幅/変換される。その電流は初段真空管の定電流負荷用トランジスターQ103、Q104のエミッターに注入される。電流注入位置は初段真空管増幅の後であるので、信号負帰還ループと重複するように別のDC負帰還ループを構成している。本機では初段真空管が破損してもDC負帰還ループは生きているので、真空管異常時のオフセット電圧発生が抑えられている。

<本機の特性>
歪率特性
周波数特性

「ハイブリッドパワーアンプ」、そして「サブミニチュア管6021Wハイブリッドプリアンプ(1)、(2)」によって、サブミニチュア管ハイブリッドプリアンプは1段増幅アンプに新たな世界を展開し始めた。適用範囲はさらに広がろうとしている。